… 。
確かそんな名前だったと思う。
雨に濡れたその子を見ながら、俺は声を掛けようか迷っていた。
きまぐれ涙
隣のクラスだし、高校に入って3年経った今でも、
と話した記憶は無かった。
ただの隣のクラスの女子。
俺にとってはそれだけの人。
でも、雨の中俯いてとぼとぼ歩いている姿を見ると、
傘を貸さないと申し訳ないような気にもなってくる。
俺はさりげなくに近づいていった。
「あの…さ。」
傘を差し出しながらそう言ったけど、その後は言葉が続かなかった。
は俺の声を聞いてびくっと肩を震わせた後、ゆっくり振り返った。
「あっ…と。し、し、し、宍戸くん?!な、なんで…?!」
なんで?
の呟いた言葉の意味がよくわからなかったが、
俺はさっきよりもに傘を近づけた。
俺の上にも雨が落ちてくる。
「これ使えよ。おまえずぶ濡れじゃん。」
「そ、そ、そ、そ、そんな…!」
「ぷっ。どもりすぎだぜ、お前。」
俺が思わず吹き出すと、の表情が少し緩んだ。
「私はここまで濡れたらもうどうでもいいし、宍戸くんホントに気にしないで。」
そういってはにこっと笑った。
俺の名前、知ってたんだ。
そのことに少しびっくりする。
まぁ、テニス部だから名前知られてても不思議はないんだが・・・。
俺が一瞬驚いた表情をしたからか、彼女はしまった!というような表情を浮かべた。
沈黙が俺たちを包む。
居心地が悪くて、俺はの手を取って傘を押し付けた。
「べ、別に返さなくていいから。じゃ。」
そう言って立ち去ろうとした俺の腕をが掴む。
「あ、あの!もし、宍戸くんがいいなら、一緒に使わない?」
遠慮がちにはそう言って俺を見る。。
「あ、ああ。いいけど…。」
予想外の展開に戸惑いつつも俺はなんとかそう答えた。
「の家ってどこ?」
「西町。」
「そっか。うちと正反対だな。」
「そうなの?宍戸くんちはどこ?」
「東町。」
「ホントだ。じゃあ、大通りまで入れていって。」
「何言ってんだよ。ちゃんと家まで送る。」
「いいよ。悪いもん。」
「いや、ほんとに。迷惑とかじゃなければ送らせてくれ。」
俺がそう言うとなぜかの瞳に涙が浮かんだ。
「!!」
「……。」
うるんだ瞳に見つめられて、その儚げな表情が目に焼きつく。
「ごめっ!なんか変なこと言ったか!?」
「……。」
違う…と言った表情で彼女は首を横に振った。
目を伏せた時、涙の粒が雨に混じって落ちていった。
「じゃ、じゃあ、なんで泣くんだよ・・・。」
「ごめん。宍戸くん優しから…。」
「優しいって…、そんな大したことしてないだろ?」
「話したこともない隣のクラスの女子に傘を差し出す行為は
優しさ以外の何物でもないと思うよ。」
「そ、そうか?でも泣くほどのことじゃ…。」
「私、今、弱ってるから。」
涙で濡れた瞳で俺の目を捕らえるとは微笑みながら言った。
「宍戸くんタイミング悪すぎだよ…。」
あの日の涙の訳を知りたくて、を校内で見かければ、
目の端で追ったりしてた。
でも、彼女はいつも笑ってた。
なんであの時は涙を流したんだろうか?
彼女の言葉が、表情が、頭から離れない。
俺が考えてもしょうがないのだけれど、
彼女の涙の原因を取り去る方法を知りたかった。
「宍戸くん!」
帰り道、後ろから呼び止められて振り返るとがいた。
「…。どうした?」
「宍戸くんの後姿が見えたから…。この前は送ってくれてありがと。」
「いや。たいしたことしてないし。」
「ううん。すごくうれしかった。」
この前の泣き顔からは想像もできないようなとびきりの笑顔で
はそう言った。
「こんなこと聞いて良いのかわかんないけど、この前何かあったのか?
俺が泣かせたみたいで気になってたんだ。」
「ん〜。部活で飼ってた熱帯魚が死んじゃって。」
あ、私、生物部なんだ。
はそう付け足した。
は?
そんなこと?
と、思ってしまったけど、にしてみたら重大なことなんだよな。
俺の顔を見て、がくすっと笑う。
「今、そんなことって思ったでしょ?」
「えっ。あっ。いやぁ、その。」
しどろもどろな俺を見て、またが笑う。
「…と、軽く失恋。」
「えっ?」
言っちゃった。
そう彼女が呟いた。
「宍戸くん、彼女いるでしょ?この前、駅前で見かけて。」
「彼女?俺いないけど…。」
「ええ?!だってこの前、聖華女子の制服着た子と一緒にいたの見たもん。」
聖華女子…。
「それってたぶん従妹…。」
「う、そぉ…。」
真っ赤な顔したが頬を押さえる。
「や、やだな、私ってば。勝手に勘違いしてて。」
「べ、べつに、いいけど。でも…。」
失恋って、言ったよな?
さっき…。
「ぅわーーーーーーー。もう、やだーーーーー。さっきの発言忘れて!!」
じたばたと暴れだす。
「もう聞いちゃったし…、忘れられないだろ、普通。」
「そんなぁ…。」
「俺が従妹と歩いてるのを見て、は失恋したと…。」
「うう〜。追い詰めないでよ〜。」
俺の言葉を聞いてが軽く俺を睨む。
「もう一度言うけど、俺は彼女はいねぇ。好きなやつはいるけど。」
「そ、そう…。好きな人、いるよ、ね…。」
「雨の日、俺の前で涙を流した子が気になってしょうがない。」
「えっ!」
が顔を上げた瞬間、俺は彼女を抱きしめた。
「し、し、し、宍戸く…、ん。」
「俺の気持ち分かったか?」
俺の腕の中で控えめにが頷く。
「あの日からずっとのこと気になってた。涙のわけを知りたかった。」
俺の言葉を聞いた後、静かにが話し出した。
「私は、あの日、へこんでた。宍戸くんに彼女がいるって思い込んでたし、
かわいがってた熱帯魚も死んじゃったし、傘持ってないのに雨降ってくるし、
もう、なんか、全てがどうでもいいやって思ってた。」
それなのに…。
がそう続ける。
「あの日、宍戸くんが私を見つけてくれて、気にかけてくれてすごく嬉しかった。
あの時涙が出たのは、嬉しかったから。好きな人に彼女がいても、
大切なものがいなくなっても、雨が降ってても、宍戸くんがいてくれれば
私はそれだけで元気になれるんだってわかったから。」
の瞳からはまた涙が溢れていた。
「俺、の涙に弱えーみてぇだ。」
の頬に落ちた涙を拭いながらそう言った。
たぶん、俺の顔は真っ赤だと思う。
「ご、ごめん。泣くつもりないんだけど。なんか止まんない〜。」
「うれし涙なら止めんな。 俺は……。」
俺はの耳元に唇を近づけると囁いた。
「の泣き顔も、好きだから…。」
激ダサだぜ。
そう思いながらも、今言わねえと一生言えないかもしれない。
そう思って、俺はますます顔を赤くしながらそう呟いた。
・・・ end ・・・
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あとがき
あまいっすね。こんな甘々亮ちゃんを書いちゃって
いいのでしょうかね?
硬派な宍戸っちにこんなこと言われたらメロメロです。
ヒロインちゃんじゃなくても腰くだけます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
2007/3/19 さえ
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