氷帝に通い始めて、数ヶ月。

新たな出逢いがあるとも知らず、
部活でくたくたになった体を引きずるように、
あたしはとぼとぼと下校中だった。















はじまりのうた 9

















うに頭の逆光眼鏡がなぜかあたしに向かって
手を振っている。









じゃないか!久しぶりだな。」



乾じゃん!
青学の乾 貞治じゃん!!

てか、あたしと知り合い・・・?





そういえばあたしって、氷帝に転校する前は青学に
通ってたんだっけ?



学校の先輩後輩ということ?


あたしと彼の関係がよくわからないので、
ボロを出さぬよう、相手の出方を待つことにする。



「ひ、久しぶり、だね。」
「ああ、たちが引っ越してから、
 寂しい寂しいって母さんが嘆いてるよ。」
「へっ?お母さんが?」
「ああ、の親父さんたちは元気か?
 海外に行ったんだろ?」
「う、うん!そうなのよ!!」









なんだか、家族ぐるみの付き合いのようデス。









「もし暇なら少しうちへ寄っていかないか?」
「ええっ!!いいの?」
「いいのって・・・。隣にいたときは毎日のように来てたじゃないか。」









隣の家だったようデス。



毎日のように遊びにいってたようデス。









「あはっ。そうだったね。」
「なんだか余所余所しいな。前は貞治、貞治と言って、
 懐いてくれたのに・・・。」










幼馴染の貞治お兄ちゃんのようデス。








「久しぶりだったからちょっと恥ずかしかっただけじゃん。
 いこいこ!貞治の家!」


歩き出したあたしの腕をぐいっと貞治が引っ張る。


「ん?何?」
「こっちだぞ。お前、自分の元の家忘れたのか?」






忘れたどころか知らん!!




「あはははは〜。やだな〜あたしってば。
 方向音痴過ぎだよね〜。」




引きつった笑顔でごまかしつつ、
あたしは貞治の後をすごすごとついていった。














「ここ?」


どでかい家が二軒並んで建っている。



「お前、ホントに記憶喪失とかじゃないだろうな?」
「まさか・・・。」



喪失じゃなくて、記憶自体がないんだよぅ。











あたしが前に住んでいたという家はしんと静まり返っていた。




ここに、パパとママと住んでいたの?





ここにいたあたしは幸せだった?





思い出そうとしても、もちろんここでの思い出は
何も出てこない。








じっと、只黙ってその家を見つめていたあたしの背中を
貞治がそっと押す。





「寂しいか?」
「ううん・・・。大丈夫。」




ずっと一人だった。

一人が当たり前だった。

寂しいなんて感情、あたしの中には、ない・・・。













貞治の家に入って、周りを見回す。



「お母さんは?」
「いないな。買い物の確立100%。」
「そう。」
「食べ物何か見繕ってから行くから、
 先に俺の部屋で待っててくれ。」
「あ、うん。」








指差された先には階段が見える。

あれで二階に行けという事か、な?





部屋知らないけど、とりあえず二階に
上がっとけ・・・と上がってみたものの、
二階には部屋がひぃ、ふぅ、みぃ、やっつ!!





こんなに部屋があったら、
どれが貞治の部屋かわかんないじゃん!!







やばーーーーー。

ど、どうしよう〜。






いっそ最初に会った時点で記憶喪失作戦を適用していれば
良かったのかもしれない・・・。







と、とりあえず・・・。





片っ端からあけちゃええええ!





一番近いドアを開けてみたあたしは、その瞬間固まった。














実験室!!!










そう言うに相応しい光景が目の前に
広がっている。



どす黒い液体の入ったフラスコがこぽこぽ音を立てて、
煮立っている。
液体で満たされたビーカーは、
恐ろしくも七色に光っていた。






まさしくここは乾汁製造所!!







あれで何人が死の淵を彷徨ったのだろう・・・。







「恐ろしや〜。」
「何が恐ろしいんだ?」
「ひ〜〜〜。貞治!!」





いつの間にか背後に立っていた貞治が、
不敵な笑みを浮かべている。





「な、な、な、なんでもないデス!!」
「そう?なら遠慮してないで。さあ入って。」
遠慮したいです。」






小声だけど聞こえたはずなのに!
絶対聞こえたはずなのに!!

貞治は笑顔であたしを部屋へ招き入れた。











端っこのほうにおいてある学習机の上に、
持ってきたグラスをのせ、あたしに適当に座れと指示を出す。




「そ、それ・・・、なんでコップ空なの?」
愚問だな。」




ぐ、ぐ、愚問・・・、だとはあたしも思ったわよ!




でも、まさか・・・。

まさかねぇ・・・。











「新作だ。飲みなさい。」











まさかじゃねぇぇぇぇーーーーー!!!









コップになみなみと注がれたどす黒い液体を
じっと見つめ、涙目になる。




乾汁を飲める日が来るとは思わなかった(涙)








「色は悪いが、味は確かだ。」
「絶対嘘・・・。」
は好きだろう。いつも飲んでたじゃないか。」



マジデスカ・・・。




「さあ、ぐぐっと。」
「ちなみにこれはどんな効能が?」
「飲んでみてのお楽しみだ。」




これはもう。

飲まなきゃいけない展開なのですね。




あたしは心の中で十字を切り、神に祈った。



命だけはお助けを!!と・・・。













・・・ next? ・・・











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                    あとがき


    青学からの初出演が乾とは・・・。
    びっくりです。(←おい。)
    一話で終わる予定でしたが、長くなったので分けました。
    連載じゃなくなってる気がしないでもありませんが、
    気にしないで下さい・・・。

    最後まで読んでいただきありがとうございました。

    2007/6/2  さえ


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